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倉持麟太郎
2021.2.1 13:51

特措法改正での要請➡命令&罰則での営業制限は「内在的制約」か??

今回の特措法審議で、西村大臣が改正特措法で命令&罰則をもって店舗に時短や休業をさせることは「事業活動に内在する制約であるということから、憲法29条3項の損失補償の対象とならない。」と答弁しました。
内在的制約というのは、すごく雑ぱくにいうと、人権も無敵かつ絶対無制約ではなくて、人権と人権がぶつかったり人権と社会的公益がぶつかったときに、制限されて調整される、そういう制約が人権には内在している、ということです。
今回は、飲食店を例にとれば、飲食店の営業の自由の行使によってコロナが拡大するかもしれないので、社会の公衆衛生や広く市民の生命や健康によって制約を受けるという関係です。
ただ、人権の制約の方も理由さえあれば無制限に制約してよいわけではありません。
たとえば、早稲田大学の長谷部恭男先生が以前指摘していたのは(2020年7月26日朝日新聞、長谷部・杉田敦対談)
「そもそも3密を生じさせるような店の営業の自由は憲法22条の埒外」という立論です。
このとき長谷部先生は奈良県ため池条例に関する最高裁判例に言及して、この立論を正当化していました。
奈良県ため池条例事件というのは、これまた簡単にいうと、土地の所有者が自分の財産権を行使して農作物等を植えようとしたけど、そういう行為はため池が決壊するおそれがあるとして条例で禁止されていたことについて、①財産権の侵害だ!②財産権が公の利益のために制限されてるから補償せよ!として争った事件です。
判決は、
①について
「ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、…憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にある」
②について
「財産上の権利の行使を著しく制限するものではあるが、結局それは、災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上やむを得ないものであり、そのような制約は、ため池の堤とうを使用し得る財産権を有する者が当然受任しなければならない責務というべきであって、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としないと解するのが相当である。」
として、①②ともに退けました。
長谷部先生はこのロジックを今回にあてはめているし、西村大臣の内在的制約についても、この延長線上にあります。
しかし、果たしてそうか?ここからが私の問題意識
要は、内在的制約とは、
「その自由の行使自体に危険性が内在している」とすれば、それは内在的制約として制約されうるし、補償が必要でなくなる方向。
一方で
その自由の行使自体に危険性が内在していなかったり危険性が低いものに対する一律の制限は、規制が過剰であり、その「過剰」として内在的制約からはみ出た部分にはまさに「特別の犠牲」として補償がいるはず。
そうすると、長谷部ロジックはかなり粗いころになる。もっと細かく場合分けした方がよい。
①3密生じさせるような飲食店、感染症対策を全くしないor著しく不十分or営業するだけでそのようなリスクを生じさせる営業
➡こういう営業を制限するのは、そもそもその自由の行使にリスクがあるから、内在的制約といいうる=補償必要なし
②3密なし、感染症対策も適切に行っている、営業すること自体にリスクがない形態(一蘭とか、吉野家とか)
➡そもそも営業の自由の行使に伴うリスクが無いか極めて低いため、このような営業の自由の行使を罰則付きで一律制限するのは、過剰規制にあたる=補償が必要
つまり、西村大臣は「職種」や「時間」を限定的に解するから問題ないという趣旨の答弁をしていたが、「職種」「地域」「時間」を限定したとしても、「営業の態様」という限定がなく、飲食店自体を「ひとまとめ」に捉える時点で、適切に感染症対策をしている店には規制が過剰の疑いがある。
そもそも特措法1条の「目的」には、「国民の生命及び健康」と「国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすること」が等置されていることに沿って解釈すべき。
そうすると、職種や地域という切り分けで「限定的」&「内在的制約」というロジックでだけは、「補償なし」とはならない。
感染症対策を適切にしているところに今回の措置をとるとするならば、内在的制約を超えているから補償が必要なので、少なくとも補償の対象になりうる感染症対策及び店舗運営の形態といった基準を設けるべきだ。
また、営業の自由の行使に伴うリスクが少なかったり対策が取られている場合は、特措法で要請に従わない場合の「正当な理由」に該当すると解釈されるべき。
まとめると、
・そもそも適切な感染予防対策をしている店や営業形態から感染リスクが低い店への規制は過剰規制
・過剰規制部分については時短・休業要請するなら補償が必要
・補償とは論理必然関係はないが、補償しないとすれば、特措法で「正当な理由」に該当すると解釈すべき
・特措法の法の目的には「国民の生命及び健康」&「国民生活及び経済への影響最小」とあることを解釈の軸にすべきこと
このあたり、研究者の見解も是非聞きたい。
倉持麟太郎

慶応義塾⼤学法学部卒業、 中央⼤学法科⼤学院修了 2012年弁護⼠登録 (第⼆東京弁護⼠会)
日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事。東京MX「モーニングクロ ス」レギュラーコメンテーター、。2015年衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考⼈として意⾒陳述、同年World forum for Democracy (欧州評議会主催)にてSpeakerとして参加。2017年度アメリカ国務省International Visitor Leadership Program(IVLP)招聘、朝日新聞言論サイトWEBRONZAレギュラー執筆等、幅広く活動中。

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